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 ヴルカヌス・イン・ヨーロッパプログラム
 日本人学生対象

碓田 みなみ
ヴルカヌス・イン・ヨーロッパ2016年度派遣
語学研修: 英語(アイルランド)、ハンガリー語(ハンガリー)
企業研修:Mortoff Ltd. (ハンガリー)
現在の所属: Google Cloud Japan G.K.
1. 自分の大学での専攻、参加のきっかけ
  1.1 大学の専攻                 
大学では理工学部で経営工学科を専攻し、大学院同学科にて国際航空の交通ネットワークについて研究をしていました。ヴルカヌスプログラムには、大学学部を卒業後、大学院1年目を休学して参加しました。
 1.2 ヴルカヌス参加のきっかけ
大学学部時代は家族や単身での海外旅行の他、1ヶ月のフィリピン留学、アメリカで3週間のティーチャー アシスタント ボランティアに参加しました。
しかし、より長期間その地で生活するという体験がしたいと思い、大学4年時に1年間の留学プログラムを探し始めました。海外へ行く方法はいくつか選択肢がありましたが、インターンシップという実務経験が得られること、語学留学とはまた違った経験や人との出会いがありそうだと考えたこと、奨学金が給付されることなどからヴルカヌスへの応募を決めました。
2.欧州での経験
2.1 語学研修期間
受け入れ企業の意向で、私の語学研修期間は英語とハンガリー語の2つに分けられ、最初の2ヶ月を英語研修のためにアイルランドで、残りの2ヶ月をハンガリーで過ごしました。この期間で特に良かったと感じているのは、語学学校に来ていた「学生」は同年代の人だけでなく、ひと回り、ふた回り上の方もいたことです。企業から機会を得て来ている人、求職のためアイルランドに来て、まず語学学校に通っているという人、子供を育てあげ旦那さんと一緒に旅行がてら語学を勉強されるご夫婦...こういった方々が友人として接してくれました。年齢を気にせずフラットに話すこと自体が新鮮でしたし、会話から学ぶ文化や人生観の違いもとても面白かったです。

プロジェクトの発表風景
語学研修後半の2ヶ月間はハンガリーでハンガリー語を勉強しました。こちらはクラスルームの英語学習から一転、マンツーマンでの授業でした。私の興味やペースに合わせて先生が授業をしてくださり、気になったことはその場ですぐ質問したり、ハンガリー語の発音を出来るまで粘り強く教えてもららうことができました。また先生がとても良い方で、携帯電話の契約に同行・通訳してくださるなど、生活をしていく上でのサポートをしていただいたこともとても有り難かったです。

現地の人が集うMargit sziget公園の中の”Japan Garden"
ハンガリーの夏はとても美しく、土日は特に用もなく家の近くやドナウ川沿いを散歩しました。
ハンガリー人は思慮深く、仲良くなると話し好きの魅力的な方々でした。ハンガリーにも頬にキスをして挨拶をする文化がありますが、皆さん挨拶の前に「日本式の挨拶はどうやるのか」「ハンガリー式の挨拶でさようならを言っても良いか」と訊くなど、相手の気持ちや文化を重んじて気遣う奥ゆかしさがあり、ある種国民性と言っていいのではないかと思います。日本に対しては総じていい印象があるようで、日本人ですと言うと親しみを持ってくださることが殆どでした。持っているSonyの製品、ホンダのバイク、日本の技術や好きなジブリ作品について同僚と話したのを憶えています。

ハンガリーで借りていたflat。
*猫は飼っていませんでした。同じ階の住人の家から可愛いお客さんが窓から遊びに来てしまったときの写真です。
2.2 企業研修期間
4月から欧州に渡り4ヶ月間の語学研修を経て、8月より企業研修が始まりました。私のホスト企業は当時従業員数が約200名ほどのIT企業でした。私を受け入れてくれたのはアプリケーション開発チームで、私はジュニア フロントエンド エンジニアとして入りました。
2.3 苦労したこと、どのように克服したか
最も印象に残っているのは、実際のプロジェクトになかなかアサインされなかったことです。企業の方針もあり、その年社内の開発プロジェクトが少なかったことにも起因していたと、今振り返ると思います。自分の開発経験が浅いことや、他のチームのプロジェクトに入れてもらうとしても、私以外全員ハンガリー人という社内で、私をチームに入れる事自体に抵抗感があることが原因だと、当時考えました。
経験の浅さを補うために、日本食レストランのウェブページ作成を頼まれたという想定でウェブページのUIを作り、先輩を捕まえて質問をしたりアドバイスを貰ったりしました。異国人としての私に親しみを持ってもらうという意味では、廊下では全員に挨拶を欠かさない、毎日他部署の3人以上と話す、社内で日本について紹介させてもらう、など地味な取り組みを継続しました。
最終的にはウェブサイト作成を知った上司がやる気を買ってくれ、 新規のプロジェクトに入れてもらうことになりました。コンサルテーションに近いリサーチのプロジェクトにジュニア リサーチャーという役割で参加させてもらい、お客さんに納品するドキュメントの一部を担当しました。このプロジェクトの途中で私の帰国の日が来てしまいましたが、チームメイトからは無事にお客さんに喜んでもらえたという連絡を頂きました。

同僚が誘ってくれた休日のトレッキング会
3.ヴルカヌスに参加して得られたもの
ヴルカヌスプログラムに参加して得られたものを4つ挙げたいと思います。
3.1 英語力の向上
まず、英語力の向上です。インターン先企業では英語でコミュニケーションを行っていました。これは受け入れ企業が国際化を図る第一歩として私をインターンとして採用した理由の一つでもありました。同僚はハンガリー人だったため、互いに外国語として英語を話していましたが、日々アウトプットすることでスピーキング力は上がったと感じました。
ハンガリー語を2ヶ月勉強したことも役立ちました。ハンガリー語は、英語にも日本語にも無い音を持っており、この新しい音を練習し日々聴いていたことも英語のヒアリング力や発音の向上に役立ったと感じています。定量的な観点では、帰国後のTOEICテストでスコアが140点ほど向上しました。
就職した現在、外資系の企業で働く中で英語を話す場面や英語で資料作成をする場面があります。ヴルカヌスに参加したことで、英語での日々のコミュニケーションの他、英語での資料作成や発表の経験が積めたことが役立っています。
3.2 コミュニケーション力
コミュニケーション力というと大層に聞こえてしまうのですが、ここでは「話したことが無い方との初めての会話で、自分に敵意を持たれずに話を聞いてもらい、目的の情報や結果を得ること」と定義させてください。こういったことはそう難しくない、と学部時代 十カ国程旅行に行った中で思っていたのですが、ことハンガリーではこれがとても難しかったことを憶えています。
スーパーや図書館では “have”, “want”などの単語が通じず、英語で話しかけると露骨に嫌な顔や態度を示されることもありました。言語に障壁があるコミュニケーションにおいて最重要なのは、互いに理解し合おうという気持ちだと思います。こちらは目的があり話しかけていますが、相手からすると私は突然話しかけてきて、その意図が分からない異国人として映っています。その相手に「聞いてあげようかな」という気持ちを持ってもらえるかどうかで、その後サポートや得られる情報量が変わります。これには、至極普通のことを言うようですが、一言目の挨拶の発音を徹底的に練習すること(ハンガリー語では ”jó napot kívánok” が丁寧な「こんにちは」です)、自分が説明できる限り現地の言葉で説明すること、どんな時も一貫して誠実な態度で話すことが重要だと学びました。
3.3 友人関係
アイルランドやハンガリーでできた友達には、欧州滞在中にスイス人の友人のご実家に滞在させてもらったり、帰国し大学院を卒業したあと卒業旅行でエストニアの友人に会いに行ったりしました。今も交友が続いています。ホスト企業で一緒に働いていた上司・先輩・同僚の方ともたまに連絡をもらったり送ったりしています。遠くの国に、何か気軽に聞くことが出来る友達を持つことが出来たのもヴルカヌスで得たもののひとつです。
また私はヴルカヌスに参加するまで大学外で継続的に連絡を取る友人は居なかったため、プログラム参加を通して他の大学の学生と知り合えたことはとても良い刺激や学びを得る機会になりました。
参加したときは予想もしていませんでしたが、ヴルカヌスへの参加が就職先にも影響しています。私が今働いている企業は、ヴルカヌスの同期が一年先に就職し働いていた企業です。私の就活中に同期が会社説明会に誘ってくれたことがきっかけで、企業を知り選考を受けるに至り、ご縁があって今に繋がっています。
訪れたイタリアのスカラ座でのオーケストラ鑑賞。当日並んでチケットを買いました。
3.4 未知のものに取り組む
最後に、精神的なタフさや、未知のものへの耐性はヴルカヌスに参加した1年で大きく成長できた部分だったと感じます。ハンガリー企業でただひとりの外国人として働く中で、研修の後半は「この機会を最大化できていないのでは」「企業の期待するものを全く返せてないのでは」という不安や焦りとずっと向き合っていたように思います。思い返すと、もっと出来たこと・試せたことが沢山あったかもしれませんが、当時の自分なりに考え行動してみたこと、それによっていくつかの成果を認めてもらえたことは自信になりました。
現在働いている部署では、私の代にて初めて新卒社員を受け入れ始めたそうです。新卒一期生として私を採用した理由は分かりませんが、ヴルカヌスに参加したことやハンガリーでの体験から「前例がない道でもやっていけそうかもな」という印象を持っていただけたのかな、と思っています。

4.最後に
興味は持つものの自信がなく二の足を踏んでしまう私がヴルカヌスに応募できたのは、先に教授に推薦書を頼んでしまった、というのがひとつあります。正直なところ全く受かる気がしていなかったのですが、ひとつ、ひとつと選考を進み、ヨーロッパ行きの切符を手にしたという感じでした。
私のように自分にあまり自信が持てなくて参加を迷っている方がいらしたら、私のような人もいることを知っていただいて、一歩踏み出す一助となると嬉しいです。
11月頃に始まるクリスマスマーケット
(2020年 執筆)

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